更新日 2020年11月10日

結婚式場の企業間統合や買収が起こりにくい理由

0769_結婚式場の企業間統合や買収が起こりにくい理由

2020年に入ってからブライダル業界の経営が難しい状況が続いています。結婚式は延期が続き、開催されても二人のみや親族のみなど小規模化、また海外渡航制限の影響で海外ウェディングは開催できず、といった状況です。このような状況になると企業間の統合や合併の話が出てきやすいのですが、結婚式場だと合併が起こりにくい背景があります。今回の記事ではその理由について考えていきます。

 

最近のブライダル業界を取り巻く状況

今年に入ってから結婚式の開催が困難になり売上が見込めなくなったことから、ブライダル企業は様々な対応を迫られています。各社からのプレスリリース等で私が確認できたものだけでも

  • 緊急の追加借入
  • 増資による資金調達
  • 店舗の閉鎖
  • 希望退職の募集
  • 子会社の売却

など、当面の運転資金確保とコスト削減のための対策を講じている企業が多いです。

ただ、ブライダル企業(特に結婚式場)は会場費や人件費などの固定比率が大きいので、コストカットでしのぐにも限界があります。早く売上(というよりはキャッシュ)が入ってこなければいくら法人の延命措置を続けても厳しいところが多いでしょう。

 

経営難に陥った結婚式場の取り得る方法

結婚式場を運営する企業に資金が尽きる前の対応としては、次のような方法が考えられます。

  1. 式場を閉鎖する
  2. 運営権を他社に渡す
  3. 式場を他社に売る
  4. 会社を他社に売る

1はそのまま閉店で、土地や会場を保有しているかどうかにもよりますが閉店後に売却後して少しでも借金返済に充てることが多いと思います。

2は式場などの有形固定資産の保有権は自社で持ちつつ、実際の式場の運営を外部に委託する方法です。運営受託企業が顧客からお金をもらい、その売上の〇%を式場に手数料として払う、という契約であることが多いですね。会場費の支払いは残るものの人件費や広告宣伝費がかからなくなるので支払いを小さくすることができます。ホテルやレストランなど他で本業がある場合が多いです。

3は式場はそのまま他社に売ることですね。一般的には単に式場などの施設だけを売却するのではなく、そこで働いていたスタッフは転籍、既に成約済みのお客様は売却済みの企業へ引継ぎ、となることが多いです。

4は運営企業ごと売却するので、先ほどの式場の場合に加えて他の機能や本社組織など様々なものが含まれるようになります(詳細はこの記事では割愛)。

このうち、1は現実的に起こりますし、2のケースは比較的よく見かけるのですが、3や4のブライダル企業どうしでの売却や統合、合併は構造的に起こりにくいんですよね。その理由を次から書いていきます。

 

理由①:マーケットが供給過多

そもそもサービス提供者側が圧倒的に供給過剰であり、かつ結婚式場がなくなっても結婚式する人は減りません(結婚式場があるから結婚式をしているわけではない)。また、競争力の高い式場はそもそも売られないので、もし売りに出るとしたら多くの場合競争力の乏しい式場です。

需要過多で市場が成長している時であれば他社式場を買ってでも自社シェアを伸ばすというのは有効な施策と言えますが、逆に縮小傾向の時に競争力が低い会場を買うとリソースも薄まり非効率化に陥る可能性も高いので、買い手側がつきにくいのです。

 

理由②:結婚式場の商圏が狭い

リゾート地の結婚式場を除き、一般的な結婚式場の商圏はかなり狭いです。

そのためもし他社の結婚式場を買収や統合をしたとしても、その会場でカバーできるエリアはさほど広がりません。さらに、もし自社の出店式場と同じエリアであれば社内競合する可能性も高くなります。

また一方で自社式場未出店エリアの会場を統合しようとすると、人の移動、サロンの設置、など新規出店用の初期投資が買収コスト以上にかかるため、これも思ったよりもハードルが高いのです。

 

理由③:かかるコスト・工数が意外と大きい

  • 買収や統合にかかる費用
  • 媒体契約・代理店契約・サプライヤー契約の見直し・まき直し
  • 人が辞めた場合採用が必要
  • 新規エリアなら付帯設備の新規出店コスト、社員の移動コスト

このように、新規出店と比べると低コストと思われる式場の統合や買収ですが、意外とコストと工数がかかることが多いんですね。特にもともと働いていた人たちを引き継げるかどうかが大きく、もし全員ついてこないとなると新たに採用したり異動させたり、ということが必要になります。

また、売りに出される式場は後継者問題の場合を除きそもそも赤字なことも多いので、負債もあるし(まぁその分受注残もあるけど)、コストもかかるしさらに既存メンバーの負担も増えるし、それでもやる?となることが多い気がします。

 

理由④:その他の理由

ここまで書いてきた以外の理由だと、

  • これまで運営してきたブランドと異なるブランドのため統合が難しい
  • 既存社員と統合先社員の価値観や社内文化の違いがあるため難しい
  • 会場は欲しいがサプライヤーとの独占契約が残っていて契約できない

などは結婚式場の統合や買収を検討する際によく聞くなぁという感じですね。

もちろん、ケースバイケースなので一概にこうだとは言えないですが、上記のような理由が複合して最終的な合意には至らないというケースが多いと思います。

 

結婚式場の統合が起こりにくい理由まとめ

結婚式場運営企業の場合、現状の施行枠稼働率が100%近くない限り、同じエリアの会場であれば買わなくてもなくなれば自社が増えるのでその方が低コストで業績を伸ばすことができます。また、他のエリアであれば買ってメリットが大きければ買収することもありますが、いざ始めると想像以上にコストがかかるので慎重になる企業が多いです。

こういった理由から業界内の統合や買収が起きにくいのだと思います。

この記事を書いた人

市川 貴之

株式会社アナロジー代表。「ブライダル3.0を実現する」をミッションに掲げ、ブライダル事業者向けマーケ支援、ブライダル特化の人材紹介、Leju(フリープランナープラットフォーム)を運営しています。マーケティング、事業企画が得意。

CATEGORY同じカテゴリーの記事