更新日 2021年09月15日

結婚式場の支配人の評価基準を考える

0062_結婚式場支配人の評価基準を考える

アナロジーの市川(@analogy_ichitk)です。

会社の規模が大きくなり多様な職種のスタッフが働くようになったり、役職のレイヤーが複雑になってくるほど、公平かつ透明性の高い評価制度を設定する難易度は高くなります。

今回の記事では結婚式場の支配人の評価基準を私なりに考えてみます。支配人という役職に求められる要件を定義し、それに対してどのような基準を設定するのが最適なのか、という視点で書いていきます。

 

結婚式場支配人の役割

結婚式場の支配人は、一般的には現場スタッフの最上位の役職であり、最終意思決定者であることが多いです。支配人とその他のコーポレート部門での業務分担や責任範囲の定義は会社によって異なるので一概には言えないものの、極端な話1つの子会社の社長くらいの位置づけだと思います。

結婚式場の役職レイヤーは、支配人>マネージャ>リーダー>スタッフ、兼務の場合も含めてこのように設計されていることが多く、またプランナー以外にも内製外注問わずサービスやドレススタッフ、キッチンのメンバーとも連携を取っていくことが必要になります。

62_結婚式場支配人の一般的な立ち位置

このような組織体系において、支配人とは新郎新婦に価値あるサービス(結婚式)を提供し、会社に売上・利益をもたらす責任者であると言え、その任務を遂行ためには以下のような役割・スキルが求められます。

  • 売上をつくる:売上がなければ何もできない
  • 集客する:売上を作るためには集客しなければいけない
  • 営業する:集客した新郎新婦に成約してもらわないと売上が作れない
  • 施行(結婚式)をつくる:新郎新婦に対してしかるべきサービスを提供しなければいけない
  • 利益を出す:売上があってもコスト管理ができないと利益が出せない
  • 業績管理をする:売上や利益の状態を常に正しく把握しないと、正しい意思決定ができない
  • 採用する:何をするにも1人ではすべてをすることはできない
  • マネジメント:採用したスタッフをきちんと機能させなければならない

これらの役割・スキルをすべて持っていないと支配人とふさわしくない、というわけではないですが、例えば「株式会社●●迎賓館の社長」という役割であればこれくらいのスキルは持っていないと務まらないでしょう。

会社によっては集客はマーケティング部門が一括で責任を担っていたり、採用は人事部で行っていたりすることもあると思いますが、少なくともそれぞれの部門の担当者やマネージャクラスと対等に会話するレベルは持っていくべきだと思います。

 

支配人に求められる役割・スキル

62_結婚式場支配人に求められる役割・スキル

売上をつくる:業界構造やビジネスモデルの理解

  • 業界のビジネスモデル
  • 最近の業界トレンド(施行スタイルやユーザーの結婚式場の検討方法の変遷)
  • ブライダル業界の市場規模や年間の施行組数、平均単価の推移
  • 競合しうるサービス

例えばこれらは知っているから直接売上に結びつく類の知識ではないですが、支配人職に就くのであれば知っておきたいことです。自社の競合会場はどこかといったミクロな情報だけではなく、これらの情報も常に最新状態でキャッチアップできることが必要です。

集客する:マーケティングの知識・理解

集客数とは、結婚式場に来館してくれるお客様の数なので、お客様がどのようなメディアや媒体で情報を得て、そこからどのように比較検討し、どういう方法で来館予約をしてくているのかは、正確に知っていなければいけません。

  • 自社会場のあるエリアにはどのような媒体があるか
  • 媒体ごとにどのような露出をすると集客効率を最大化できるのか
  • 媒体ごとの費用対効果はいくらなのか
  • ブライダル媒体以外の集客手法にはどのような方法があるのか(デジタルマーケティング、SNSなども最近は有力な手法)
  • 競合会場との違いはどこか、選んでもらうために重要なポイントはどこなのか

これらの情報や知識は自社会場の集客責任を担う立場であれば必要だと思います。

もちろん、すべての広告や集客施策を自分でディレクションできる必要はないですが、ただいつものようにゼクシィに出稿して集客が多かった少なかったと一喜一憂しているようでは足りないと思います。マーケティング部門が思うように機能していないのであれば自ら動く、くらいの知識と行動力が必要でしょう。

営業する:新規・打合せの理解

支配人自身のそれまでのキャリアにもよるので、自分自身で新規や打合せで活躍したり背中で見せる必要はないですが、少なくとも下記のようなポイントは抑えておく必要があります。

  • 新規の接客フローはどのように設計されているのか
  • 成約率をチームとして高めるためにはどんな施策を展開していくことが必要なのか
  • 打合せのオペレーションフローやツールはどのようになっているのか
  • 顧客満足を犠牲にすることなく単価を上げていくためにはどういう設計や施策が必要なのか
  • 新しいスタッフが入ったときにどのように育てていくのか

施行(結婚式)をつくる:オペレーション(サービス、ドレス、フラワー、他)の知識・理解

結婚式をきちんと実施できる組織をマネジメントするためには非常に幅広い知識が必要で、プランナーの業務だけではなく、サービスやキッチン、ドレス、フラワー、司会、音響、カメラマンなど関わるスタッフ全員の動きやを関わり方を理解しておかなければいけません。

特に異業種から転職してきて支配人になった方の場合、ここの知識習得が大変であることが多いですが、支配人を担うのであれば必須なので何があっても勉強しましょう。

理想で言えば施行の中で出てきたスタッフのアイディアやお客様からの声を拾い上げ、それをもとに商品開発までフィードバックできるようなレベルまで行けると素敵だと思います。

利益を出す:コスト管理に関する知識・施策の実行

売上だけでなくコストも見てPLを理解、調整できることが必要です。ただ、地代家賃や減価償却など、支配人に任命されたときには既にどうしようもない部分もあるとは思いますので、完全にPL責任を負うというのは酷な場合もありますが。

  • アイテムごとの原価がどうなっているのかを把握し、注力アイテムを見極め打合せのシナリオを再構築する
  • 歩率が業界平均値と差がある外注業者との交渉余地はないのかを探して交渉する
  • 広告宣伝費の費用対効果が悪いものを見直し、集客手法の最適化を図る
  • プランナー業務でアウトソースできる部分を探し出して、人件費の最適化を図る

など、式場全体で見るとコストを抑える、最適化するポイントはたくさんあるので、こういったところまでを主体的に提案できるようになれると理想的です。

業績管理をする:会計知識・エクセルやシステムを使えるスキル

特にブライダル業界の場合は、施策を打ってから売上を計上するまでの期間が長いので、先々の見通しをきちんと予測して施策を打っていかなければいけません。

業績管理の方法は会社によって様々で、システムやBIツールなどで管理している場合もあれば、エクセルなどで管理している場合もあるでしょう。システムそのものを自分で構築できる必要はないですが、

  • 現時点の受注状況で当期の見通しはどうなるのか
  • 目標とする数値を見通しの差異は、いつ、どれくらいあるのか
  • その差異を埋めるために必要なKPIは何で、どれくらい必要なのか
  • そのKPIを埋めるための施策はいつまでに、どうやって実行しなければいけないのか

こういったことを常に正確に把握できるような環境にしておくことが必要ですし、その環境下で支配人自身も理解しておく必要があります。

採用をする:面接スキル・候補者の集客に関する知識

採用業務は規模の大きい会社だと人事部が一括で行っているところが多いと思いますが、面接の過程で支配人が面接を行うこともあるでしょう。

  • どういう価値観の人を採用したいのか
  • 採用判断をする際の重視する経験やスキルは何か
  • 採用したい人材に魅力を感じてもらうためのプレゼンはどのようにするのか
  • 他の会社と迷っているときに自社の特徴やメリットをわかりやすく伝えられるか

プランナーや式場スタッフを採用する際の面接では、このような事前準備が必要です。

面接の場は候補者を選別する場であると同時に、優秀な候補者ほど転職先を選ぶ機会でもあります。優秀な人材が面接に来てくれた時にしっかり口説き落とせるように、自分の言葉で語れるストーリーやシナリオをしっかり組んでおきましょう。

さらに、どんな求人メディアで募集をかけると効率的なのか、求人を出すときのPR文のキラーコンテンツは何なのかなどまで自分で考えられるようになると、より一層支配人自身のスキルも磨かれますし、面接時に話すこととの一貫性も持たせることができます。

マネジメント:マネジメントスキル

マネジメントと一言で書いてもその範囲は非常に幅広いですが、

  • スタッフ1人1人の目標の適切な設定
  • 考えつくされた業務設計と業務コントロール、進捗のマネジメント
  • スタッフのキャリアパスを明示し、1on1など定期的な確認機械の設定

など、一般的に言われている知識や方法論は体系的に勉強しておくといいと思います。

特に近年では気合と根性で乗り切るマネジメントスタイルは好まれない傾向が顕著ですし、そもそも業界全体がシュリンクしているので頑張って分だけ成果伸びるなんてことはあり得ないので、しっかりと根拠に基づいた適切なマネジメントスキルが求められます。

 

結婚式場支配人の評価基準案

62_結婚式場支配人の評価基準(案)

私の考える評価基準は上の表のとおりです。項目は項目、ウェイトは評価する際にどれくらい重要視するかのバランスのイメージ、評価基準は何の数値をもって達成度合いを判断するかの基準です。

基本的にすべての項目とも数値目標または基準値の達成率で評価すべきだと思います。それだけの責任をになっていますし、結果が出るプロセスを経てなんぼの世界なので、定性的なプロセス目標のようなものはなくていいかと。

業績目標

ブライダル業界は成約・受注から売上計上まで時間がかかるので、それを加味した適切な目標数値の設定が必要です。半期ごとの評価をしている会社が多いと思いますが、半期が始まった時点で当該半期の施行組数の積み上げは正直あまり期待できません。その点は経営層としっかりと握って数値目標を設定することが必要です。

また、原価や販管費は絶対値ではなくKPI基準を定めてそれに対する比率で評価したほうがいいと思います。絶対値で評価基準を定めてしまうと営業状態によって物理的に不可能だったり(例えば受注が上振れると残業増えるので人件費目標が未達となる、など)逆もしかりなので、どういう状態のときにどういうKPIになっているべきかの基準値を定め、それに対してどうだったのか、で評価する方が経営対支配人双方で納得感があるのではないかと思います。

施行目標

業績同様顧客満足度も重要であるため、この項目もわずかでも取り込んだ方がいい、というのが私の考えです。

もし社内でユーザーアンケートなどを取っている場合は、それの基準点の達成率で評価するといいと思いますし、それができない環境だったとしても、みんなのウェディングやウエディングパークへの投稿促進など投資不要でできる活動もありますから、そこは知恵を絞ってでも適切かつ透明性の高い評価基準を設けるべきだと思います。

採用・マネジメント目標

ここが最も定性的な部分ではありますが、できるだけ定量的な基準は設けるべきだと思います。人員計画の達成率や離職・退職の有無など間接的にマネジメントの成果として返ってくる事象なので、マネジメントを頑張ったかどうか、といった抽象的な目標とするのではなく、しかるべきKPIを設けて達成率評価とすべきでしょう。

 

結婚式場支配人の評価基準についてまとめ

前半が重くて、肝心の評価基準案が少し軽くなってしまいましたが、そもそも評価基準とは「会社がその社員に求める(期待する)役割に対する達成度合い」をベースに設定するものであり、今回のテーマである支配人であれば、「結婚式場という施設の最上位の責任者」なのでかなり高めの役割期待と評価基準になると思って書いてみました。いかがでしょうか?

この記事を書いた人

市川 貴之

株式会社アナロジー代表。「ブライダル3.0を実現する」をミッションに掲げ、ブライダル事業者向けマーケ支援、ブライダル特化の人材紹介、Leju(フリープランナープラットフォーム)を運営しています。マーケティング、事業企画が得意。

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