更新日 2021年08月30日

結婚式場の来館予約CPAが30万円でも大丈夫な理由

0042_結婚式場の来館予約CPAが30万円でも大丈夫な理由

アナロジーの市川(@analogy_ichitk)です。

結婚式場の集客責任を担っているマーケティング部門では、来館予約単価、来館単価、成約単価の指標を管理しているところは多いと思います。これらの指標は低く抑えられるに越したことはないですが、現実的には社内で基準をもけて良し悪しを判断しているでしょう。

この基準をなんとなく設定している企業も多いですが、今回の記事では、来館予約単価が30万円でも結婚式場経営は成り立つ理由について書いていきます。

 

来館予約CPA(来館予約単価)とは?

CPAって何?結婚式場運営における適正なCPAってどうやって考えたらいいの?という方は、まずこちらの記事をご覧ください。

結婚式場のCPA(反響単価・来館単価)目標はどうやって決めたらいい?

来館予約CPAは「1来館予約を獲得するのにかかった広告宣伝費はいくらか」を表す指標なので、当然、この数値が低い方が効率的に獲得できていることになります。

来館予約CPAを計算するためには、

  • 媒体別にいくらの広告宣伝費を投下したかのデータ
  • 来館予約がどの媒体経由で発生したかのデータ

この2つのデータが必須なので、ここから先の話はこの2つのデータを取得できる環境にあることを前提に進めていきます。

 

損益分岐となる来館予約CPAの値の計算方法

これも冒頭の記事にも書いてありますがざっとおさらいです。

広告宣伝費の損益分岐点

一般的に、広告宣伝費を増やすにつれてCPAは悪化していきます。

42_広告宣伝費とCPAの関係

一方、広告費をかけ続けるとどこかで損益分岐点にぶつかります。損益分岐とは黒字と赤字の境目のポイントのことです。

42_損益分岐となるCPAのライン

上の図を見ると、広告宣伝費が一番左の時は利益が出ていて、真ん中の時はトントン、右の時は赤字になってしまっています。赤字になるわけにはいきませんから、ちょうど真ん中くらいの広告宣伝費になるまでは投下しても赤字にはならないということです。

1来館予約当たりの利益期待値を算出する

42_1来館予約当たりの売上・利益期待値

来館予約後のKPIと理論上の期待値を計算していくと、上記の図のようになります。

  • 1組の来館予約が入ると、0.8の来館予約確定(1×80%)
  • 0.8の来館予約から0.64来館(0.8×80%)
  • 0.64来館から0.26成約(0.64×40%)
  • 0.26来館から0.25施行(0.16×95%)
  • 0.25施行は100万円の売上(0.25×100万円)
  • 100万円の売上は60万円の粗利(100万円×60%)
  • 60万円の粗利から30万円の広告費除く営業利益(60万円-(100万円×30%))
  • 30万円から最初の1組の来館予約を獲得したのにかかった広告宣伝費を引いた残りが営業利益(30万円-来館予約CPA)

このように数字をつなげて考えていきます。

上記の数値例だった場合、来館予約CPAごとに、1来館予約ごとの営業利益期待値は以下のようなシミュレートになります。

42_来館予約CPA別の1来館予約当たり営業利益期待値

このシミュレートのように、来館予約CPAが30万円を超えるまでは予約を獲得するごと利益の期待値は増え続けることになります。これがこの記事のタイトルで「来館CPA30万円でも大丈夫」と書いた根拠になります。

騙された気になるかもしれませんが、厳しすぎるCPAラインを目標に設定して効率的な広告だけに出向して広告費を絞って来館が少なくなり固定比率が上がるよりも、CPAが悪化しても組数稼いで地代家賃などの固定比率を下げたほうが最終的な全社PLの営業利益率は高くなるのです。

 

平均成約率と施行枠稼働率から計算される必要来館数

では、来館予約CPAが30万円に達するまで広告宣伝費を突っ込めばいいか?というとそうではありません。

結婚式場の商材(=売り物)は結婚式ですが、正確には結婚式をする施行枠(=時間)を売っています。ホテルや貸し会議室などと同じで、結婚式を受けられる組数が初めから決まっているので、その組数をいかに高く売っていくかというコントロールが必要になります。

具体例を見てみましょう。

  • 1チャペル2バンケットの会場で、1日当たりの施行可能組数は1バンケ当たり2組、つまり1日当たり4組
  • 月間休日は年間通じて平均すると9日間なので、1か月あたりの平均受注可能組数は9日×4組=36組
  • この会場に勤務する新規プランナーの平均成約率は40%

この条件の時に必要な来館数は何組でしょうか?

正解は「90組」です。

計算は36組の成約を成約率40%で獲得する場合の計算なので、36÷40%の数式となります。この考え方に基づいて月間平均来館数ごとの成約可能数のシミュレートを組むと以下のような表になります。

42_来館数と施行枠稼働率観点のシミュレート

この会場では、月間平均来館数が90組を超えた分は成約につながらないので余剰な来館、ということになります。もちろん、実際の結婚式場運営では月によって来館数のトレンドも異なるので、1月は130組来館で12月は50組来館ということは起こりえますが、平均すると90組を超えても意味がないと言えます。

これが施行枠観点で必要な来館数の考え方です。

 

2つの考え方に基づいた最適な広告宣伝費投資額と目標CPAの決め方

ここまで説明したように、広告宣伝費と来館目標を決める際は

  • 来館予約CPAの観点では30万円に達するまで広告費をプッシュ
  • 施行枠観点では必要来館数以上の来館は不要

という2つの考え方がベースとなり、これを組み合わせて具体的な数値を練っていくことになります。

42_上限CPAと施行枠観点の必要来館数

概念的にはシミュレートを重ねていくと上の図のようになるので、広告宣伝費をかけて来館獲得を目指すときの最適解をシミュレートし、PL上の営業利益が最大化するところを狙って運用していくべきです。もちろん、実際の運用のシーンではこんなにきれいなシミュレートにはならないですし、不確定要素も多いのでやってみないとわからない要素も多いでしょう。

また、必要来館数を満たすだけの来館を獲得できている会場はここまでの考え方を用いて広告費の投資と抑制のバランスを調整することができますが、昨今のブライダル業界の状況を考えるとそんなに潤沢な来館を獲得できていない会場の方が多いかもしれません。

その場合、経営方針としてはどうしてもコストカットの方向で話が進んでしまいがちですが、コストカット→広告費抑制→地代家賃などの固定比率が上がる→より苦しくなってコストカット→と悪循環に陥ってしまいます。

特に結婚式場運営のように売上高に対する固定比率が高い業界の場合は売上の下落が利益率にダイレクトに聞いてきますので、売上に最も直接的にかかわる広告はギリギリまで踏み込んだ方がいいと、個人的には思います。

 

来館予約CPA30万円でもOKの理由についてまとめ

これまで多くのブライダル業界のマーケティング担当者とお話しする機会がありましたが、来館単価は7万円!など印象で設定している企業も多かったです。

確かにこれまでの業界全体の平均をとるとだいたいそれくらいだったかもしれませんが、マーケットの状況も変わってきていますし、単価も成約率も原価もすべてが会場によって違うので、そういった一般的な基準とされている数値を盲目的に信じないで、今の自社会場の置かれている状況を正確に理解して戦略・戦術を考えることも必要ではないかと思います。

最後に、しつこいですがどんな会場でも来館予約CPA30万円でOK!というわけではないので、自社の数値をきちんと集計してシミュレートしてみてくださいね。

この記事を書いた人

市川 貴之

株式会社アナロジー代表。「ブライダル3.0を実現する」をミッションに掲げ、ブライダル事業者向けマーケ支援、ブライダル特化の人材紹介、Leju(フリープランナープラットフォーム)を運営しています。マーケティング、事業企画が得意。

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