更新日 2021年11月03日

ブライダル業界の広告宣伝費はなぜこんなに大きいのか?

0144_ブライダル業界の広告宣伝費はなぜこんなに大きいのか?

アナロジーの市川(@analogy_ichitk)です。

結婚式場の集客にかかる広告宣伝費はかなり大きな割合を占めていますが、なぜこんなに大きいのでしょうか。今回の記事ではブライダル業界の広告宣伝費についてまとめます。

 

上場企業の広告宣伝費はどれくらい?

144_ブライダル上場企業の広告宣伝費比較

上図はコロナ発生前の2019年度の上場企業の有価証券報告書の数値を記載したものです、業界全体の平均で見ると売上対比で数%と言ったところでしょう。つまり、結婚式の平均単価が350万円だとすると、そのうちの約7%(25万円)は広告のために支払っているとも言えます。

各社によって違いがあるのは

  • 出店エリアや規模、方法の違い
  • 広告戦略の違い
  • 成長戦略の違い

など様々な背景があるので、一概に高いところが悪いというわけではないです。

 

ブライダル業界の広告宣伝費が大きい理由

ゲーム業界などの広告と人件費しかないような業界ではもっと広告宣伝費が高いこともありますが、結婚式場の建設・維持費(PLでは減価償却、地代家賃として計上)という大きな固定費があるうえに売上の10%近い金額を広告として使っている、というのはけっこう大きいと思います。

ただ、なぜこんなに広告宣伝費をかけているのか、かけなければいけないのかというと、それにはいくつかの理由があります。

固定費の割合が大きいので、売上確保が最優先になる

結婚式場運営ビジネスは減価償却・地代家賃と人件費の固定費の割合が高いので、売上が大きくなればその分利益がたくさん出て、売上がへこむとその分利益がなくなる、赤字になるというハイリスクハイリターンな業界です。

144_ブライダルビジネスの特徴:固定費が大きい

※上図はイメージ。
そのため、とにかく売上を確保するための施策・投資の優先順位が高くなりやすくなります。

結婚式の売上は

  • 売上=集客数×成約率×組単価

で計算することができ、この中で集客数は

  • 集客数=広告宣伝費×費用対効果(CPA)

となります。KPIの中で、成約率、組単価、費用対効果はそれほど大きく変わらないので、売上を維持成長させるためには集客数をどこまで伸ばせるか=広告宣伝費をどこまで投下できるか、という判断に至りやすくなります。

1組当たりのリターンが大きいので高CPAでも投資回収できる

とはいえ、広告宣伝費を投下して売上が伸びたとしても、広告宣伝費の損益分岐点を超えてしまうような効率で投下すると利益は出ません。

144_損益分岐となるCPAのライン

逆に言えば、広告経由の集客効率が損益分岐点に達するまでは広告を投資し続けたほうが理論上プラスになるのですが、実際数値はだいたい以下のようになります(計算式/数値事例)。

  • 来館予約数×アポ率=来館予約完了数(1×0.8=0.8)
  • 来館予約完了数×来館率=来館数(0.8×0.8=0.64)
  • 来館数×成約率=成約数(0.64×0.4=0.25)
  • 成約数×組単価=売上(0.25×400万円=100万円)
  • 売上×粗利率=粗利(100万円×0.6=60万円)
  • 粗利-広告宣伝費以外の販売管理費=営業利益(60万円-30万円=30万円)

このロジックで考えると、1来館予約を獲得するのにかかった広告宣伝費を30万円から引いた残りが営業利益の期待値となります。逆に言えば1CVを獲得するのに30万円までは投下しても大丈夫といえます(もちろん、会社や式場によってKPIやコスト構造が違うのであくまで参考数値としてご覧下さい)。

144_1組当たりの売上・利益の期待値

このように、広告宣伝費を大きく投下しても1来館予約獲得のリターンが大きいため、広告宣伝費を踏むという判断がしやすい構造にあります。また、このロジックについての詳細は以下の記事にまとめていますので、参考にご覧ください。

結婚式場の来館予約CPAが30万円でも大丈夫な理由

結婚式場運営企業より媒体の方が立場が強い

結婚式場探しの媒体は種類が少なく媒体ごとの棲み分けや序列はほぼ決まっています。主観ですが

  • ゼクシィ→認知媒体、マス広告と同じような使い方
  • みんなのウェディング、ウエディングパーク→クチコミを気にする層の獲得用の媒体
  • ハナユメ→価格の重要度が高い層の獲得用の媒体
  • その他→ニッチなこだわりのある層をターゲットにした媒体

ゼクシィがそもそもマーケットに対して強すぎるというのがあるのですが、媒体ごとに対象とするターゲットが微妙に異なるので、あまり媒体ごとの出稿比較になりにくいのです。

また、特に大手媒体に対して会場の立場が弱いので、媒体側が値上げをしてもじゃあ掲載を止めますというほど余力のある会社はほとんどないと思います。広告宣伝費をあげざると得ないから他のコストどこ削ろうか、という発想になりがちです。これも、広告宣伝費が大きくなっていく構造的な原因の1つと言えるでしょう。

 

ブライダル媒体について

広告宣伝費を投資される側=媒体側の数値も見てみます。

  • ブライダル業界の市場規模は約1兆2千億円(参考記事はこちら
  • 売上高広告宣伝費率を数%とすると、広告宣伝費の総投資額は約1000億円弱
  • そのうちゼクシィの売上が564億円(コロナ前)なので50%を超えている
  • ゼクシィ以外の媒体はハナユメでも約35億円でゼクシィの1/10以下

これからもわかるようにゼクシィ一強と言っていいでしょう。

これだけ規模が大きく、かつ独占に近いレベルであれば当然発言権も強くなり、媒体中心で業界が動いていくことになりやすいです。こういった理由からも広告宣伝費が高くなっていると思います。

 

ブライダル業界の広告宣伝費についてまとめ

ブライダル業界の広告宣伝費がなぜ大きいのかについてまとめました。ここの構造が変わらない限り業界全体の価格抑制が進まないので、常識を覆すような新しい形のサービスが出てくることを期待したいですね。

この記事を書いた人

市川 貴之

株式会社アナロジー代表。「ブライダル3.0を実現する」をミッションに掲げ、ブライダル事業者向けマーケ支援、ブライダル特化の人材紹介、Leju(フリープランナープラットフォーム)を運営しています。マーケティング、事業企画が得意。

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