
ブライダル業界で予算編成や集客を担当している方は「広告宣伝費が高すぎるからおさえろ!」と上司に言われたり、「来期から出稿プランの金額が上がります」と媒体の営業担当から言われたりすることも多いのではないでしょうか。実際、結婚式場の集客にかかる広告宣伝費はかなり大きな割合を占めていますが、なぜこんなに大きいのでしょうか。そこで、今回の記事ではブライダル業界の広告宣伝費についてまとめました。予算編成に携わる方や集客担当者にとって参考になればと思います。
上場企業の広告宣伝費はどれくらい?
テイクアンドギヴ・ニーズ(T&G)
売上高 | 39,976 |
広告宣伝費 | 2,927 |
売上高広告宣伝費率 | 7.3% |
出典:第20期有価証券報告書/単位:百万円
備考:連結ではなく、TAKE and GIVE NEEDS単体のPLから数値を抜粋
ツカダ・グローバルホールディング
売上高 | 57,253 |
広告宣伝費 | 4,124 |
売上高広告宣伝費率 | 7.2% |
出典:第23期有価証券報告書/単位:百万円
備考:国内婚礼のみのPLは公表無しのためホールディングの連結損益計算書から抜粋
アイケイケイ
売上高 | 18,172 |
広告宣伝費 | 866 |
売上高広告宣伝費率 | 4.8% |
出典:第22期有価証券報告書/単位:百万円
備考:アイ・ケイ・ケイのPLから数値を抜粋
エスクリ
売上高 | 24,535 |
広告宣伝費 | 3,047 |
売上高広告宣伝費率 | 12.4% |
出典:第15期有価証券報告書/単位:百万円
備考:連結ではなく、エスクリ単体のPLから数値を抜粋
上場企業の広告宣伝費率を見ると、売上対比で10%弱というのが業界全体の平均かと思います。つまり、結婚式の平均単価が350万円だとすると、そのうちの10%(35万円)は広告のために支払っている、とも言えます。
広告宣伝費が大きい理由
ゲーム業界などの広告と人件費しかないような業界ではもっと広告宣伝費が高いこともありますが、結婚式場の建設・維持費(PLでは減価償却、地代家賃として計上)という大きな固定費があるうえに売上の10%近い金額を広告として使っている、というのはけっこう大きいと思います。ただ、なぜこんなに広告宣伝費をかけているのか、かけなければいけないのかというと、それにはいくつかの理由があります。
固定費の割合が大きいので、売上確保が最優先になる
結婚式場運営ビジネスは減価償却・地代家賃と人件費の固定費の割合が高いので、売上が大きくなればその分利益がたくさん出て、売上がへこむとその分利益がなくなる、赤字になるというハイリスクハイリターンな業界です。
※上図はイメージ。
そのため、とにかく売上を確保することの優先順位が高くなりやすいのです。
結婚式の売上は
- 売上=集客数×成約率×組単価
となり、集客数は
- 集客数=広告宣伝費×費用対効果(CPA)
となります。ここで、成約率、組単価、費用対効果はそれほど大きく変わらないので、売上を維持する、または伸ばすためにはどこまで広告宣伝費を投下できるか、となりやすいので、広告宣伝費を投下しようとなるのです。
1組当たりのリターンが大きいからCPAが高くても回収できる
とはいえ、広告宣伝費を投下して売上が伸びたとしても、広告宣伝費の損益分岐点を超えてしまうような効率で投下すると利益は出ません。
逆に言えば、広告経由の集客効率が損益分岐点に達するまでは広告を投資し続けたほうが理論上プラスになるのですが、実際数値はだいたい以下のようになります(計算式/数値事例)。
- 来館予約数×アポ率=来館予約完了数(1×0.8=0.8)
- 来館予約完了数×来館率=来館数(0.8×0.8=0.64)
- 来館数×成約率=成約数(0.64×0.4=0.25)
- 成約数×組単価=売上(0.25×400万円=100万円)
- 売上×粗利率=粗利(100万円×0.6=60万円)
- 粗利-広告宣伝費以外の販売管理費=営業利益(60万円-30万円=30万円)
このロジックで考えると、1来館予約を獲得するのにかかった広告宣伝費を30万円から引いた残りが営業利益の期待値となります。逆に言えば1CVを獲得するのに30万円までは投下しても大丈夫といえます(もちろん、会社や式場によってKPIやコスト構造が違うのであくまで参考数値としてご覧下さい)。
このように、広告宣伝費を大きく投下しても1来館予約獲得のリターンが大きいため、広告宣伝費を踏むという判断がしやすい構造にあります。また、このロジックについての詳細は以下の記事にまとめていますので、参考にご覧ください。
結婚式場運営企業より媒体の方が立場が強い
結婚式場探しの媒体は種類が少なく媒体ごとの棲み分けや序列はほぼ決まっています。主観ですが
- ゼクシィ→認知媒体、マス広告と同じような使い方
- みんなのウェディング、ウエディングパーク→クチコミを気にする層の獲得用の媒体
- ハナユメ→価格の重要度が高い層の獲得用の媒体
- その他→ニッチなこだわりのある層をそれぞれの媒体で獲得していく
ゼクシィがそもそもマーケットに対して強すぎるというのがあるのですが、媒体ごとに対象とするターゲットが微妙に異なるので、あまり媒体ごとの出稿比較になりにくいのです。また、特に大手媒体に対して会場の立場が弱いので、媒体側が値上げをしてもじゃあ掲載を止めますというほど余力のある会社はほとんどないと思います。広告宣伝費をあげざると得ないから他のコストどこ削ろうか、という発想になりがちです。これも、広告宣伝費が大きくなっていく構造的な原因の1つと言えるでしょう。
媒体別のポジショニング
では次に、媒体側の数値も見てみます。
ゼクシィ

2018年の資料によると、ゼクシィの売上は546億円です。
みんなのウェディング

出典:Stock Clip
こちらの資料によると、みんなのウェディングの売上は約17億円です。伸び悩んでますね。
ウエディングパーク
非上場なので明確なデータ貼りませんが、だいたいみんなのウェディングと同じくらいじゃないかなと思います。
ハナユメ

こちらの資料のブライダル関連の数値を見ると、ハナユメの売上は約35億円程度でしょうか。
マイナビウエディング
マイナビウエディングはもとより、マイナビも非上場なのでわかりませんでした。
媒体別の売上まとめ
- ブライダル業界の市場規模は約1兆2千億円(参考記事)
- 売上高広告宣伝費率を10%弱とすると、広告宣伝費の資料規模や約600億円
- そのうちゼクシィの売上が564億円なので、なんと約50%
- それ以外の媒体はハナユメでも約35億円でゼクシィの1/10以下
これからもわかるようにゼクシィ一強と言っていいでしょう。これだけ規模が大きく、かつ独占に近いレベルであれば当然発言権も強くなり、媒体中心で業界が動いていくことになりやすいです。こういった理由からも広告宣伝費が高くなっていると思います。
まとめ
ブライダル業界の広告宣伝費がなぜ大きいのかについてまとめました。ここの構造が変わらない限り業界全体の価格抑制が進まないので、常識を覆すような新しい形のサービスが出てくることを期待したいですね。
おわり