
3月末決算の会社では、そろそろ翌期の予算策定が始まる会社も多いのではないでしょうか。予算をどのように策定するかはその後の年間の事業運営に大きな影響を及ぼすだけでなく、評価や採用など多くのことに影響してきますので、誰にとってもわかりやすく、扱いやすく、理解しやすい予算を作ることが重要です。今回の記事では、マーケティング部門が担うことがほとんどの広告宣伝費予算のフォーマットの作り方を紹介します。正しいフォーマットで作成することで、事業の透明性や業務の生産性を高めることができるので、ぜひ参考にしてみてください。
広告宣伝費予算を組むときに重要なポイント
予算フォーマットは会社によって作り方は違うと思いますが、完全にシステム化しているところは多くないですし、エクセルやスプレッドシートを用いて策定しているところがほとんどでしょう。ただ、うまく運用出来ていない会社だと
- もともとも予算がいくらだったのかわからなくなってしまった
- これから先に使用予定の金額がわからない
- 最新のバージョンの予算ファイルがどれかわからない
など、数値を探したり集計するだけで手間がかかる、もっとひどいところだとどれが最新の数字か誰もわからない、ということも起こっていると思います。予算と実績がこのようにわからない状態で事業を運営していると
- 思ったよりも広告宣伝費を使いすぎてしまって予算超過してしまった
- 逆に思ったよりもたくさん余ってしまってもっと集客できたはずなのにと後悔した
といったことがよく起こります。そうならないためにもしっかりした予算フォーマットを作り、しかるべき運用をしていくことが大切です。ちなみに、結婚式場全体の予算の作り方は以下の記事でまとめてありますので、こちらも併せてご覧ください。
網羅されているべき情報
※複数会場を運営する会社の広告宣伝費予算策定を想定しています。単独会場の場合は1会場分の予算がそのまま全社計になります。
ざっと上の図のような情報が網羅されていることが必要です。
- 勘定科目:広告宣伝費か販売管理費かの情報(会計上、別で管理していない場合は一緒でいいです)
- 対象会場:どこの会場の広告宣伝費なのかの情報です。広告出稿も店舗ごとに考えることが一般的でしょう。
- 計上月:何月に使う広告宣伝費なのかの情報
- 媒体:出稿する媒体の情報
- 内容:できれば明細レベルで持っておくといいでしょう。例えばゼクシィネットでも、基本掲載、特集、リスプラ、など複数あります。
- 費用:具体的な出稿金額の情報
※ちなみに、ゼクなびなどのエージェントへの支払いは今回は外しましたが、販売手数料としているか広告宣伝費としているか会社によって異なるので、もし広告宣伝費として処理しているところはこの表の中に組み込むことが必要です。
これらの情報を網羅した広告宣伝費の予算表を作りましょう。抑えるべき情報に漏れがあるとこの段階ですでに致命的です。
予算情報を組むうえで意識すべきこと
次に、実際のフォーマットの解説に入る前にいくつか意識しておきたいポイントをまとめておきます。
使いやすい
SQLやプログラミングが必要など、更新や運用に特殊能力が必要なフォーマットはダメです。エクセルを使う場合でも運用で複雑な関数の打ち込みが必要なものなどは避けましょう。
修正しやすい
ブライダル業界の場合、年度前に作った予算をそのまま運用して大丈夫だったということはほとんどないはずです。自社の受注の状況も予定通りいかないこともあれば、マーケットの状況も競合が出店してくることもありますし、同エリア他社の出稿状況が変わることもあります。そういった状況下で元の予算からの変更をしやすく、かつどの程度変わっているのかが見やすいフォーマットであることが重要です。
予算と予定と実績がわかること
上場企業の場合、期初予算と実績の差異を報告する義務があります。そうでなくても、業績の振り返りをするときに予算との差異は必ず確認することになるでしょう。つまり、予算で設定した金額、これから使う予定の金額、実績として使った金額、この3つは常に可視化されている状態が望ましいです。
さて、これらのポイントを踏まえて、具体的なフォーマットの紹介に入ります。
私がオススメする広告宣伝費予算フォーマット
今回の記事で紹介するフォーマットは、私自身が業界や会社は変わっていますがもう5年ほど使っているもので、基本的に媒体運用メインのマーケティング担当者向けに書いていますが、比較的どの業界でも使いやすいものだと思いますので、参考になればと思います。
準備:使うツール
エクセルかGoogleスプレッドシート。同時に運用する(修正や追記する)人が5人未満の部署ならエクセルでもいいと思いますが、マーケティング部門の人数がそれ以上いて、かつ同時に修正する可能性が高いのであればスプレッドシートで作ったほうがいいと思います。今回はスプレッドシートで作ります。
①明細記入用のシートを作る
スプレッドシートを新規で開いて、明細記入用のシートを作ります。シート名は明細、でも出稿明細、でもなんでもいいです。
こんな感じですね。ざっと各項目に入る内容としては先ほどのセクションで網羅した内容です。
この枠組みを組む際に重要なのは、出稿内容の明細が入っているシートをマトリックス形式にしないことです。マトリックスにしてしまうと修正が上書きするか、予算、予定、実績ごとにマトリックスを作らないといけなくなるので、見やすさや使いやすさが落ちるだけでなく、ファイルのバージョン管理が必要になり管理工数が激増します。
②出稿内容を入力する
会場名~出稿内容までは特に問題ないかと思います。
- 予算金額:ここには広告宣伝費予算を入力します。上図のはゼクシィ1ページ当たり75万円(徹底は85万円)で書いています。
- 予定金額:期初の時点では予算とイコールになります。期中の運用時に予定が変わったときはこちらの金額を上書き修正し、予算の欄は変更しないようにします。変更した日付や内容はメモ欄に書き残しておきます。
- 実績:期初時点では空欄のままスタートし、実績が締まったタイミングで入力します。ゼクシィなどの媒体出稿系は予定とずれることはほぼないと思いますが、リスティングやフェイスブック広告などは予定通りと言うことはないでしょう。
- 予定-予算:そのままです。「=G4–F4」の計算式です。
- 実績-予算:こちらもそのままですが、最初は実績が空欄なので「=if(H4=“”,“”,H4–F4)」こんな感じの数式でいいでしょう。
- F2セル:フィルタをかけた際の総額が表示されるようにしています。「=subtotal(9,F4:F10000)」この数式を入れています。運用を始めた後に、今月の広告費はいくら?とかこの会場の広告費はいくら?というのをフィルタをかけるだけで表示できるので便利です。
この要領で、各会場ごと、各月ごとの出稿内容をザーッと埋めていきます。5会場以上運営していたり、複数の媒体に出稿している場合は、縦のスクロールが非常に長くなるのですが、運用面の使い勝手の良さでそこは取り返せるので、頑張って初期入力をしてしまいましょう!
③サマリのシートを作る
運用は明細のシートだけでも大丈夫なのですが、上司への共有や経営会議での報告、半期単位の進捗を見たりするのはこれだけだと不十分なので、サマリのシートも作っておきましょう。方法は以下の2つがあります。
ピボットテーブルを使う
3行目から一番下までのセルと選択した後、データ>ピボットテーブルをクリックします。そうすると新しいシート「ピボットテーブル1」というのが出来上がるので、以下の項目を設定します。
- 行:会場、追加ボタンを押し媒体
- 列:計上月
- 値:予算金額
すると、以下のような表が出来上がります。
これは会場ごと、媒体ごと、月ごとの予算金額の表です。こうすると見やすいですね。値のところを予定金額に変更すれば予定金額の表、実績にすれば実績、それぞれの際にすれば際にすることができます。
ピボットテーブルを使用するメリットは、
- 関数の知識が不要なので簡単
- 計算が走らないのでスプレッドシートが重たくならない
などがあります。あまり関数に詳しくない場合はまずこちらでやって見るといいでしょう。
関数を入力して計算する
関数に抵抗がない方は、SUMIFSなどを用いて自分でサマリフォーマットをカスタマイズしてみましょう。この関数集計をするときに、明細の縦スクロールフォーマットが役に立ちます。特にSUMIFSやAVERAGEIFS、COUNTIFSなど複数条件を設定して集計をかける場合は、同じ行にすべてのデータが入っているほうが扱いやすいですから(これがマトリックスの表だと無理)、メリットが大きいですね。
④数値を確定する
このように広告宣伝費のフォーマットと金額を入力したら、後は予算編成が決まったら数値を確定させましょう。確定するまでは予算と予定の金額はそろえておきますが、一度予算が確定すればそれ以降の予定変更は予定金額欄だけを変更しましょう。そうすると期初予算との差異を見ることができます。
⑤運用時の注意点
最初、慣れるまでは縦スクロールの長さに使いにくく感じるかもしれませんが、
- どの会場がどの順番にあるかだいたい覚えてくる
- フィルタを活用するとすぐ見つかる
など、比較的早く慣れていく方が多いと思います(実際、過去に私が使ってきたところでもみんなすぐ使えるようになりました)。運用時に注意しなければいけない点としては、
- 新しい媒体や広告出稿内容を追加するときは12ヶ月分を1セットで追加する(単月だけ追加するとフォーマットが崩れます)
- 一度決めたら、予算の金額を変更しない
- 予算から予定を変更したときは、メモ欄に変更内容を記載する
- もし今回紹介した内容以外に項目を追加したい場合は追加しても全然OK(担当者、稟議申請確認欄、など)
このような感じです。
この広告宣伝費フォーマットがオススメの理由
これまでに様々な広告宣伝費予算のフォーマットを見たり使ってきましたが、個人的にはこのフォーマットが一番しっくり来ています。その理由はいくつかあるので簡単に紹介します。
予算と実績の比較が見えやすい
予算、予定、実績があるので、「どの数値が何の数値なんだっけ?」という何が正しい数字だっけ議論が非常に起こりにくくなります。これ系で時間を取られるのは本当に非効率的なので、正しい数字が何か、がすぐにわかっているほうがいいと思います。
縦スクロールだけの1つの表で運用できる
同じようなフォーマットの表が1つのエクセルの中にいくつもあると、どれがどれの表なのかわからなくなりがちですが、明細は1つの表で管理できるので(その代わり長いですが)、慣れてしまえば情報が散らからなくて使いやすいです。
複数人で同時に修正できる
スプレッドシートを使う場合に限られますが、複数人で同時に管理することも可能です。少人数で同じ拠点で仕事をしている場合は特に大きな問題にはなりませんが(エクセルでもいいと思います)、他拠点かつ5名以上の場合は同時に修正するタイミングもあると思うので、その点でもメリットがあります。
複数のファイルにならないのでバージョン管理が必要ない
上書きのたびに新しくファイルをコピーして上書き保存する、ということが不要ですので(スプレッドシートを使っているのと、明細の管理をマトリックス管理としていないから実現できる)、どのファイルが最新だっけ?ということが起こりません。予算表をブックマークしておけばいつでも最新の予算表にアクセスできます。
まとめ
簡単ですが、広告宣伝費予算フォーマットについて、オススメの作り方をまとめました。もし依頼あれば(時間かかりますけど)作りますので、以下のメールアドレスに
- お名前
- 会社名
- 依頼内容
を明記の上、ご連絡ください。
info@analogy.co.jp
落ち着いたらフォームも取り付けますので、それまでしばしお待ちください。
おわり